Crypt/地下室

 薄暗い階段を降りていきながら、私は軽い目眩を覚えた。一段一段降りるたびに動悸が高鳴り、冷たい汗が吹き出してくる。この下には不吉な何かがある。この屋敷の中でも特に濃密な妖気が漂っている。そう感じるものの、何故か私は引き返す事ができなかった。単純な好奇心から地下への入り口に立ったものの、すでに私はその妖気に絡め取られたのか、自分の意志とは裏腹に吸い込まれるように階下を目指していた。
 地下に降りると通路があったが、それは弱々しい蝋燭の炎で照らされているだけで、一見しただけではその規模はわからなかった。通路の脇には幾つかの扉が並んでいるが、それらの扉は地上階とは違い、簡素で無骨な造りである。どの扉からも怪しげな気配が沁み出しており、どれを開けてもその途端に何か恐ろしげなものが踊り掛かってくるのではないか、とさえ思えた。
 このまま先の見えない通路を進むか。意を決してとりあえず手近な扉を開けてみるか。私はしばらく逡巡した。

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